災害時に車で安全な避難先へ着いても、そこで使えるトイレまで移動できるとは限りません。車椅子や歩行器がない、通路が濡れている、身体に合う設備がない。こうした条件が重なると、「避難できた」と「排尿できる」の間に空白ができます。
私は短距離なら介助を受けて歩けます。しかし、屋外で立つ時は、力の入る側の手で車体などをつかまないと不安です。その手を身体の支えに使うと、袋型携帯トイレを持てません。
では、安全に停車した車の座席で、立たずに使えるのか。以前の失敗から原因を考え、衣服の条件を変えて実際に1回排尿しました。
結論は「車内で座れば使える」ではなく、「袋を下向きに保てる衣服の開き方なら、私の場合は1回使えた」です。
30秒で分かる実測結果
| 確認したこと | 結果 |
|---|---|
| 以前の実使用 | ゴムのズボンと下着が袋を挟み、袋が水平になった。尿が入口付近にたまり、こぼしそうで怖かった |
| 今回の実使用 | 助手席で、前ファスナーを開けたズボンと前開き下着を使用。尿は袋の底へ流れた |
| 漏れ・汚れ | 衣服と座席への漏れ、汚れはなかった |
| 後処理 | 袋のチャックを閉じ、付属の持ち帰り袋へ入れて口を閉じられた |
| 所要時間 | ズボンを開けてから持ち帰り袋を閉じるまで約3~5分 |
| 後部座席 | 未使用の同型品で位置と保持だけ確認。操作差はなかったが、実際の排尿はしていない |
| 実測後の変更 | 車避難用の衣服・携帯トイレの組み合わせは新たに用意しない |
今回分かったのは、500mlという容量より前に、座った姿勢で袋の底を入口より低く保てるかが成否を分けたことです。
災害避難先では「トイレがある」と「使える」は同じではない
東京都の水害体験集には、車椅子を使う家族が避難中に最も困ったのはトイレで、なかなか行けなかったという事例があります。日本トイレ協会が紹介した能登半島地震の聞き取りでも、車椅子や歩行器がなく、雪や水が入った廊下をトイレまで移動できなかった例がありました。
この2例から分かるのは、避難所や避難先に便器があるかだけでは足りないことです。自分の移動手段、通路、姿勢、介助の条件を含めて、初めて「使えるトイレ」になります。
一方、冠水し始めた車内に残って携帯トイレを使う想定ではありません。国土交通省は、水深が増すとドアが開きにくくなり、車が流される危険もあるため、浸水前の早い段階で避難するよう案内しています。この記事が扱うのは、水の危険から離れ、安全に停車できた後の排尿です。

最初の仮説は「携帯トイレがあれば座って使える」だった
使ったのは、吸水ポリマー入りで、口にチャックがある小便用500mlの袋型携帯トイレです。商品を比較するためではなく、車にあった同型品で自分の動作を確かめました。
以前、ゴムのズボンとゴムの下着を前側だけ下げ、座ったまま実際に使ったことがあります。身体を大きく動かさずに済むので、一見相性がよさそうでした。
ところが、下げ切っていないズボンと下着のゴムが袋を挟みました。袋を下へ向けられず、ほぼ水平になったため、尿が底へ流れず入口付近にたまりました。実際には漏れませんでしたが、こぼしそうで怖くなりました。
ここで問題を「袋の容量」から「座位・衣服・手の使い方」へ置き直しました。
| 仮説 | 判断 | 根拠 |
|---|---|---|
| ゴムのズボンでも座って使える | 私には不成立 | 衣服のゴムが袋を挟み、下向きにできなかった |
| 男性なら車外で立って使える | この場面では不成立 | 力の入る側の手を身体の支えに使うため、袋を保持できない |
| 前が開く衣服なら座って使える | 1回の実使用で成立 | 袋を下向きに保ち、排尿から密封まで完了した |
| 後部座席なら操作性を保って視線を減らせる | 一部だけ確認 | 空袋での位置確認はできたが、実排尿はしていない |
前ファスナー付きズボンと前開き下着で1回実測した
試験条件
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 場所 | 安全に停車した自家用車の助手席 |
| 車の状態 | 走行していない |
| 時間帯 | 昼間 |
| 座席 | 普段の位置と背もたれ。調整なし |
| 使用者 | 男性。男女兼用と表示された製品だが、女性の使用動作は確認していない |
| 衣服 | 前ファスナーを開けたズボン、前開き下着 |
| 携帯トイレ | 袋型、小便用500ml、吸水ポリマー・チャック・持ち帰り袋付き |
| 実使用回数 | 1回 |
| 成功基準 | 尿が底へ流れる、漏らさない、袋を閉じる、持ち帰り袋へ収納する |
| 実測日・観察者 | 未記録 |
ズボンの前ファスナーは閉めず、前開き下着から袋の入口へ位置を合わせました。排尿中は、力の入る側の片手で袋を持ちました。衣服のウエスト部分を下げていないため、座位を崩す必要はありませんでした。
今回は袋を下向きに保て、尿は底まで流れました。入口付近へたまる怖さはなく、衣服や座席への漏れ、汚れもありませんでした。
排尿後は、動かしにくい側の手も支えとして使い、両手で袋のチャックを閉じました。その後、付属の持ち帰り袋へ入れ、口を閉じました。ズボンのファスナーも、座ったまま落ち着いて操作すれば自分で閉められました。家族がいる場合は、最後だけ閉めてもらう選択もできます。
使えた理由は、衣服を全部下ろしたからではない
今回の違いは、ズボンや下着を膝まで下ろしたことではありません。前の開口部から袋を入れ、袋の下側を衣服のゴムに邪魔されず、座面側へ下げられたことです。
このため、同じ袋でも結果が変わりました。

- ゴムのズボンでは、衣服が袋を挟む
- 袋が水平になり、尿が入口付近に残る
- 前が開く衣服では、袋の底を下げられる
- 尿が吸水材のある底へ流れる
前が大きく開く下着や、排尿方法に合わせた衣服の工夫は、公益財団法人テクノエイド協会や国立障害者リハビリテーションセンターの資料でも紹介されています。ただし、今回の結果は私の身体条件、衣服、車、袋の組み合わせでの1回分です。
助手席では使えたが、目隠しは十分とは言い切れない
昼間の助手席では、前方からは見えませんでした。助手席側も約1m離れれば角度のため見えませんが、窓の近くへ来てのぞけば見えます。運転席側からは見えるものの、今回の車では車道側になる想定でした。
後部座席にはカーテンと、助手席より濃いスモークがあります。介助があれば後部座席へ移れます。未使用の同型品を使って位置と保持だけ確認したところ、助手席との操作上の違いはありませんでした。

ただし、後部座席で実際に排尿していません。夜間に車内灯を点けた時の見え方も未確認です。「スモークだから見えない」と決めず、昼と夜、車内灯の有無、窓に近づいた人からの角度を別々に確かめる必要があります。
実測できても、車避難用の備えには追加しなかった
今回の条件では使えましたが、私は前開き下着、前ファスナー付きズボン、袋型携帯トイレを車避難用の組み合わせとして新たに用意する予定はありません。
実測記事では、成功した対策を必ず採用する必要はありません。成立する条件が分かったことと、家庭の備えとして続けることは別の判断です。この記事では、変更していない事実をそのまま結果に含めます。
同じ問いを平時に確かめるチェックリスト
実際の災害中や、冠水・積雪など車外へ出る判断が必要な時に試さないでください。安全に停車し、すぐ中止できる平時の条件で、まず排尿せずに動作だけ確認します。
- 座ったまま、衣服の前を必要な範囲まで開けられるか
- 身体を支える手と、袋を持つ手が同じにならないか
- 袋の底を入口より低く保てるか
- 衣服のゴムや座面が袋を挟まないか
- 排尿後に袋の口を閉じられるか
- 持ち帰り袋へ収納し、口を閉じられるか
- 衣服を戻せるか。必要なら誰にどこだけ頼むか
- 車外から見える方向はどこか
- 後部座席へ移る場合、安全に介助を受けられるか
- 使用済み携帯トイレをどこへ置き、自治体のルールに沿ってどう捨てるか
実使用を確かめる場合は、本人が希望し、衛生用品や着替えを準備し、家族などが近くにいる条件にしてください。立位や移乗に転倒の不安がある場合は、自己判断で試さず、普段の動作を知るリハビリ職や支援者へ相談してください。
この実測で分からないこと
- 実使用は助手席での1回だけで、繰り返した時の再現性は分かりません
- 後部座席は未使用品での位置確認だけです
- 実測日と第三者の観察条件は記録していません
- 別の車種、座席、衣服、体格、身体条件で同じ結果になるとは限りません
- 男性本人による結果で、女性の使用動作は確認していません
- 大便、長期の車中泊、臭い、廃棄物の保管は確認していません
- 夜間に車内灯を点けた時のプライバシーは確認していません
- 豪雨で冠水した車内に残るための方法ではありません
経済産業省は災害時のトイレ備蓄を案内しています。しかし、個数をそろえるだけでは、本人が使えるかまでは分かりません。私の失敗は、袋がなかったことではなく、持っていた袋を座位と普段の衣服で下向きにできなかったことでした。
家庭で確認する最初の問いは、「何個あるか」に加えて、「いつもの姿勢と衣服で、入口から底まで流せるか」です。


